最近はほとんど見かけなくなった所謂コンセプト・アルバムで、2095年頃の未来の世界を舞台にした曲で構成された作品です。
ELOはビートルズのフォロワーでもあるので、フックが効いたポップなメロディーなんですが、そこにSF的な歌詞が乗ってきて、好きな人にはたまらないアルバムでした。
レコード屋(今では死語だ)のオヤジに「これ、いいよ」って勧められて買ってきたのですが、レコードに針を落として(これまたアナログ過ぎ)出てきた日本の歌謡曲とはまったく次元の異なる音楽に、当時の僕は衝撃を受けました。
このアルバムは、ロケットが空気を切り裂いて飛んでいくような効果音をバックに、壮大なシンセの和音が鳴り響き、そこにボコーダーによるロボ声のナレーションが入る『プロローグ』という曲で幕を開けます。
そしてアルバムの3曲目が『Yours Truely 2095』という曲なんですが、会えなくなってしまった彼女に似た女性に心を惹かれたんだけど、実はその女性はアンドロイドだったっていう内容の歌詞なんです。
I met someone who looks like you, she does the things you do, but she is an IBM.
出典:Electric Light Orchestra 『Time』
『君にとてもよく似た女性に会ったんだ。仕草まで似ていたよ。だけど彼女はIBM製品だった。』
この She is an IBM. にやられました。
アンドロイドだってことを表現するのに、こういう言い方があるのかと。なんだかかっちょいい言い方だなというのと、IBM製アンドロイドという両方の発想にです。
1981年はIBMにとっても特別な年でした。
1981年というのは、マイクロソフトのMS-DOSを搭載したIBM PCが発表された年なのです。
これはある意味、ITの世界にとって大きな進歩でしたが、そうは言っても1981年は、まだPCが本格的に普及したりする前です。
その年にELOは、人間と見分けがつかないIBM製アンドロイドに人間が恋をする世界を想像していた訳です。
これはSF映画の金字塔と言われる『ブレードランナー』で、人間と見分けがつかないアンドロイド(映画ではレプリカントって言います)が登場した1982年よりも早かったですね。
同じ曲の後の方では、こんな歌詞も出てきます。
She is the latest technology, … and she’s also a telephone.
出典:Electric Light Orchestra 『Time』
『彼女は技術的にも最先端で、… そして電話機能も付いてるんだ。』
スティーブ・ジョブズがiPhoneで電話を再定義する遥かな昔に、ELOはコンピュータと電話の融合も想像していたのです。
なかなかすごいですよね。
あれから39年が経ち、世界は少しELOが歌った世界に近づきました。
2095年まではもう少しあり、IBMはまだ人間と間違えるアンドロイドは作っていませんが、AIが急速に発達し、量子コンピュータの実用化が近づき、シンギュラリティ到来もあり得るかもといったことになってきました。
すでにAIは人間を超えつつある訳ですし。
AIは感情を持たないにせよ、瞬時にネットワーク上の膨大なデータから、相手が喜ぶ的確な答えを見つけて返答するようになり、相手の人間がAIに好意を抱いたりすることは十分にあり得ます。
本物の2095年には、もっとすごいことが起こっていそうですよね。
ちょいと余談でした。