ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロの心に残る作品です。
英国の文学賞で最高峰であるブッカー賞を受賞しています。
執事として自らの職業に対する尊厳を追求してきたスティーブンスですが、主人であったダーリントン卿の没落や、新しいアメリカ人の主人であるファラデイ氏に対して感じる違和感で、今ひとつしっくりとは来ていません。
そんな中で、ファラデイ氏から、自分が留守にする間に、たまに自動車旅行でもしたらどうかと勧められ、スティーブンスはかつての同僚であるミス・ケントンを訪ねることにして、初めて屋敷を後に旅に出かけます。
かつて淡い想いを抱いていたミス・ケントンからの手紙には不幸せな境遇にいることが仄めかされており、スティーブンスは少し複雑な気持ちで旅を続け、ミス・ケントンと再会します。
タイトルの「The Remains of the Day」は【日が暮れる直前の最も良い時間】のことだそうですが、人生の後半を迎えた登場人物たちは、人生の意義や希望をどこに見出すのでしょうか。
「日の名残り」の著者
カズオ・イシグロ
「日の名残り」のページ数
「日の名残り」の読みやすさ
英語学習のレベル 上級
この作品は英語的には、上級者向けです。
本当に良い話なので、挑戦する価値が十二分にあると思います。
ただ、英文をあまり読み慣れていない方は、最初はちょっと苦労するかもしれません。
主人公のスティーブンスの回想を中心に話が進むことから、会話の占める割合が低く、結果として紙面に余白がないページが多いので、読み慣れていない方は怯むかもしれません。
一文もやや長めなものが多く、初心者の場合、ちょっと集中して読まないと何を言っているのかつかめないこともあるかと思います。
ですが、全体としてのページ数はそれほどでもないので、最初の数十ページを乗り切って、この文体に慣れれば行けるのではないでしょうか。
スティーブンスが自動車旅行に出発してしまうと、その辺りからかなり楽になります。
ちょっと読むのに苦労するかもしれませんが、完読したら感動することは間違いないです!
文体や特徴
主人公のスティーブンスは英国の貴族ダーリントン卿に仕えていた執事という設定なので、語り口も英国紳士的な雰囲気を醸し出す、やや格式ばった几帳面な調子です。
回想されるのは1930年代の英国で、現在が1956年ということで、大英帝国が力を失っていく時代背景があります。
そこにスティーブンスや、その父親、かつての同僚のミス・ケントンの人生の黄昏も重なってくるのですが、高揚感のある話ではないはずなのに、淡々と語られるストーリーに引き込まれます。
地味だけど、何だかドラマチックなところもある、不思議な魅力の小説です。
「日の名残り」へのコメント
派手なストーリーはまったくなく、主人公スティーブンスが、かつての同僚ミス・ケントンを訪ねる数日間の自動車旅行に、過去の回想が重ねて語られていきます。
全体的には「動」よりも「静」の趣きが強い作品ですが、そんな中でスティーブンスの執事という職業に対するこだわりと言いますか、スティーブンスの言葉を借りれば「dignity」の追求に、ものすごいストイックな熱が感じられます。
また、仕えていたダーリントン卿への尊敬と、執事という立場から間接的にではあれ、ともに偉大な出来事に参加していたという誇りもあり、過去の回想シーンは「静」の中で静かに燃えているようなイメージです。
ですが、時は流れ、仕えていたダーリントン卿は3年前に亡くなり、誇りに思っていた執事の仕事についても、最近は細かいミスが気になっていたスティーブンス。
複雑な想いを抱え、スティーブンスの自動車旅行が進んでいきます。
おそらく現代では絶滅種に近いと思われる執事という職業。
英国の貴族の家にはまだ生息しているのかもしれませんが、このスティーブンスの回想に出てくるような、大英帝国華やかなりし頃の外交の世界とか、そういうところに関わっていた執事というのはもういないのでしょうね。
そういう栄光の時代とその後の黄昏的な時代の対比、そして登場人物たちの人生の黄昏時が重なり、物語には奥深い陰影がつけられます。
しかしそれで終わってしまう訳ではなく、スティーブンスは人生の「The Remains of the Day」に中に、新たな希望も見出します。
読み終わった後で、何だかすごくいい話だったなぁと、しみじみと心に染みてくる作品です。
ノーベル文学賞って、やっぱりさすがだなと素直に思います。
「日の名残り」の映像化
- 映画 1993年公開 ジェームズ・アイボリー監督
- 配給:コロンビア トライスター映画
- 134分
ちょっと英語に自信がない方は、映画を先に観て読むという方法が良いかもしれません。
「日の名残り」の主要登場人物
- 登場人物紹介はクリック→
-
Stevens
スティーブンス
主人公、ダーリントン卿の執事Lord Darlington
ダーリントン卿
英国の貴族Miss Kenton
ミス・ケントン
スティーブンスの元同僚、女中頭Mr Farraday
ファラデイ氏
現在のダーリントンホールの持ち主、アメリカ人
出典:「The Remains of the Day」 Kazuo Ishiguro
「日の名残り」の日本語版
カズオ・イシグロの作品
ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロの「臓器提供が合法化された英国」を描いた話題作。2005年のブッカー賞最終候補作で、淡々とした語り口だが衝撃的な内容の作品。 31歳になるキャシーは臓器提供者の介護人として働いていた。彼女が介護人に[…]