ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロの「臓器提供が合法化された英国」を描いた話題作。
2005年のブッカー賞最終候補作で、淡々とした語り口だが衝撃的な内容の作品。
提供者を育てる施設の中では、ヘールシャムは特別な学校だった。ヘールシャムでは、多くの子どもたちが、優秀な保護官に見守られ、外界からは隔絶された環境で育てられていた。
彼らは成長し、やがて気づくことになる。自分たちが外の人間とはとてつもなく違うのだということに。
やがて果たさなければならない提供という「使命」について、彼らは教えられてはいたが、まだ本当に理解してはいなかった。だが、16歳になると、彼らはヘールシャムを卒業し、外の世界へ送り出され、過酷な「使命」に向けて否応なく進んでいくことになる。
キャシーが、ヘールシャムで幼い頃から一緒に育ち、同じ運命に曝されたルースとトミーとの関係を中心に、穏やかに過去を回想していきます。
カズオ・イシグロの最高傑作と評されることもある『Never Let Me Go』。
哀しく切ない愛の物語でもあり、発達した技術が人間に突きつける大きな課題と、人間性に潜む闇を暴き出す作品でもあります。
「わたしを離さないで」の著者
カズオ・イシグロ
「わたしを離さないで」のページ数
「わたしを離さないで」の英語学習レベル(読みやすさ)
英語のレベル 中級
この作品は英語的には、中級者向けです。
少し英語を読み慣れてきた人であれば、かなり読みやすい部類に入るのではないでしょうか。単語的にも、難易度が高いものは、たまにしか出てこない感じです。
主人公Kathyが過去を回想する形で語られていきますが、カジュアルな語りで進むので、英語的難易度は低めに感じると思います。
同じカズオ・イシグロでも、『日の名残り』に比べると、同じように淡々としているのですがこちらは相当楽だと思います。
でも内容はこちらの方が断然重いです…。
「わたしを離さないで」はどういう人向きの洋書?
『日の名残り』と並んで有名なカズオ・イシグロの作品ですので、ノーベル賞作家の作品をいくつか読んでみたい方にはおすすめです。
『日の名残り』とは全然違うテーマなのですが、静かに物語が語られるという点は共通しています。ですので、カズオ・イシグロの、派手なアクションはないのに引き込まれる、あの文章力に浸りたい方にもおすすめ。
上で書いた通り、英語的にはそれほど難易度が高くないので、ノーベル賞作家の入口としても良いと思います。
「わたしを離さないで」へのコメント
臓器提供をするためのクローン人間。生殖能力もなく、何回かの臓器提供によって人生を終えることが運命付けられた人達。ものすごく重い題材を、カズオ・イシグロは、乾いた筆致で、淡々と綴っていきます。
クローン人間を扱っていることや、構造が一種のパラレル・ワールドであることから、SFという捉え方をすることがあるようですが、あまりSF色は強くない作品です。
どちらかというと、クローンや臓器提供という我々の現実世界でも極近未来にあり得る可能性について、倫理的な警告を投げかけている小説であって、あまりSF的な技術的側面には焦点を置いていません。というか、そういうところは皆無です。
死を運命付けられたクローン人間の悲哀を描いているという意味では、『ブレードランナー』のレプリカントの哀しみにも通ずるものがあるかもしれません。人間のエゴが産み出す歪みみたいなものを、ずっしりと投げかけてくる作品です。
クローンという観点を離れると、登場人物の切ない恋愛や様々な葛藤を描いた側面も持ち合わせた作品です。
どちらかというと、カズオ・イシグロ的な持ち味としては、抑えた文体で淡々と語られるキャシーとルースとトミーの関係であったり、ヘールシャムや、その後の生活を克明に描き出すところの方が本題と言ってもいいかもしれません。
こういう題材を、こういう描き方があるんだ、ということに読み終わって感じ入るといいますか。カズオ・イシグロってすごい作家なんだなと素直に感心します。
「わたしを離さないで」の映像化
- 映画「Never Let Me Go」
- 監督:マーク・ロマネク
- 主演:キャリー・マリガン、キーラ・ナイトレイ、アンドリュー・ガーフィールド
- 2010年9月3日公開(米国) 20世紀フォックス
- 105分
「わたしを離さないで」の主要登場人物
- 登場人物紹介はクリック→
-
Kathy H.
キャシー
主人公、31歳のヘールシャム卒業生で現在はドナーの介護人をやっているRuth
ルース
ヘールシャムの同級生、親友だが見栄っ張りでぶつかり合うことも多かったTommy
トミー
ヘールシャムの同級生、ルースと付き合っていたが、最後はキャシーと結ばれるMiss Lucy
ルーシー先生
ヘールシャムの保護官、生徒に真実を伝えるべきという立場を取っていたMiss Emily
エミリー先生
ヘールシャムの保護官、厳格だがクローンに希望を持たせることを目指していたMadame
マダム
ヘールシャムの経営者、生徒の作品を集めて展示会を開催していた
出典:「NEVER LET ME GO」 Kazuo Ishiguro
「わたしを離さないで」の日本語版
カズオ・イシグロの作品
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