日本の現代文学の中では、最も広く世界中にファンを持つ作家、村上春樹。
2006年にはフランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞を受賞し、それ以降も数々の海外受賞歴を持ち、国内よりも海外での評価の方が高いようです。
村上春樹のジャンルにとらわれない魅力
村上春樹のジャンルは決めがたく、作品毎に進化している
改めて村上春樹の作品のジャンルを考えてみると、いかにジャンルにとらわれない小説なのかということに気づかされます。
ファンタジーであったり、ミステリーであったり、ハードボイルドであったり、寓話的作品であったり。そして限りなくプライベートな質感を持つにも関わらず、グローバルに共感を呼んだり。
そういったジャンルレスな物語であるにも関わらず、どの作品にも村上春樹らしさは存在しています。
インタビュー集「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」を読むと、実は作品毎にいろいろなことを試しつつ、一作毎に進化してきていることが分かります。
インタビュー記事によると、村上春樹は長編を書き出す時には、物語の結末は分かっておらず、即興性を大事にして物語を進めていくのだそうです。そして初稿から、何度も何度も書き直しをするとのこと(時には何十回も)。
そうやって物語の細部を詰めて、謎を追い込んでいく。そういう丹念な作業の結果、村上春樹の小説は生み出されているようですが、でも文体はとても簡潔で、そういったプロセスはあまり感じさせないですね。
村上春樹は村上春樹、英語で読んでも質感は変わらない
多くの場合、主人公は何かを探したりするうちに、村上春樹が「地下2階」と呼ぶ、人間性の中に潜む暗闇のような領域に踏み込んでいくことになります。
そしてそこから帰還して物語が結末を迎えても、謎の一部はオープンなままであったりします。そういう音楽でいえば調性のトニックでスパーンと解決してくれないようなところであったり、不思議なものや登場人物についていけないという方もそれなりにいるようです。
しかし一方で、ノスタルジックな切なさみたいなもの、あるいは素通りできない喪失感みたいなものや、登場人物の再生の物語に、すごく共感を覚える読者も世界中にいます。
もしあなたが後者である場合、そして洋書を読みたいって思っているのであれば、ぜひ好きな村上春樹の作品を英語でも読んでみることをおすすめします。
村上春樹にはジャンルは関係なく、村上春樹は村上春樹なんですよね。そして英語で読んでも、それは変わりません。
村上春樹は英語で読みやすい
村上春樹の文体がそうさせるのか、翻訳をしている方が上手いのか、不思議と英語で読んでも、日本語で読んだときと受ける印象が同じです。
ちなみに、2004年のインタビュー記事によると、英語の場合、三人の翻訳者がいるとのことですが、最新の長編「騎士団長殺し」や「女のいない男たち」には、Tedd Goossenという翻訳者の方のお名前もありますね。
村上春樹の翻訳者と作品
アルフレッド・バーンバウム |
A WILD SHEEP CHASE HARD-BOILED WONDERLAND AND THE END OF THE WORLD DANCE DANCE DANCE THE ELEPHANT VANISHES UNDERGROUND |
フィリップ・ガブリエル |
SOUTH OF THE BORDER, WEST OF THE SUN SPUTNIK SWEETHEART KAFKA ON THE SHORE 1Q84 COLORLESS TSUKURU TAZAKI AND HIS YEAR OF PILGRIMAGE KILLING COMMENDATORE BLIND WILLOW, SLEEPING WOMAN MEN WITHOUT WOMEN WHAT I TALK ABOUT WHEN I TALK ABOUT RUNNING UNDERGROUND |
ジェイ・ルービン |
NORWEGIAN WOOD THE WIND-UP BIRD CHRONICLE 1Q84 AFTER DARK THE ELEPHANT VANISHES AFTER THE QUAKE BLIND WILLOW, SLEEPING WOMAN ABSOLUTELY ON MUSIC Conversation with SEIJI OZAWA |
テッド・グーセン |
WIND/PINBALL MEN WITHOUT WOMEN THE STRANGE LIBRARY KILLING COMMENDATORE |
こうして見ると、80年代の初期の長編をアルフレッド・バーンバウムが訳し、その後をジェイ・ルービン、フィリップ・ガブリエル、そしてテッド・グーセンというように少しずつ翻訳者が移っているようですね。
どの翻訳者の方も、本当に上手く英語に訳していると思います。言語が変わったことによる違和感は、全然感じないです。不思議ですね。
村上春樹から入る洋書読み
元々、村上春樹の小説はカジュアルで簡潔な文体で書かれていることが多いので、英語になっても読みやすいのかもしれません。それに日本語で読んだことのある作品であれば、なおさら読みやすいと思います。
そういう観点では、村上春樹から洋書読みに入るというのは、ひとつすごく上手い方法ではないでしょうか。
英語で読める村上春樹の作品
英語に訳されている村上春樹の作品を、出版年月日で並べてみました。
美味しいお酒でも飲みながら、お気に入りの作品をぜひ英語でも楽しんでください!
長編
風の歌を聴け | WIND/PINBALL | 1979年7月23日 |
1973年のピンボール | WIND/PINBALL | 1980年6月17日 |
羊をめぐる冒険 | A WILD SHEEP CHASE | 1982年10月13日 |
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド | HARD-BOILED WONDERLAND AND THE END OF THE WORLD | 1985年6月15日 |
ノルウェイの森 | NORWEGIAN WOOD | 1987年9月4日 |
ダンス・ダンス・ダンス | DANCE DANCE DANCE | 1988年10月13日 |
国境の南、太陽の西 | SOUTH OF THE BORDER, WEST OF THE SUN | 1992年10月5日 |
ねじまき鳥クロニクル | THE WIND-UP BIRD CHRONICLE | 1994年4月12日 |
スプートニクの恋人 | SPUTNIK SWEETHEART | 1999年4月20日 |
海辺のカフカ | KAFKA ON THE SHORE | 2002年9月10日 |
アフターダーク | AFTER DARK | 2004年9月7日 |
1Q84 | 1Q84 | 2009年5月30日 |
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 | COLORLESS TSUKURU TAZAKI AND HIS YEAR OF PILGRIMAGE | 2013年4月12日 |
騎士団長殺し | KILLING COMMENDATORE | 2017年2月24日 |
風の歌を聴け 【1979年7月23日】
1973年のピンボール 【1980年6月17日】
村上春樹本人の「作品的に未熟」という判断で2015年8月まで、海外では英語版が刊行されていなかったもの。なので、一番古い作品なのに、翻訳者がテッド・グーセンなんですね。
短編
神の子どもたちはみな踊る | AFTER THE QUAKE | 2000年2月25日 |
バースデイ・ガール | BIRTHDAY GIRL | 2002年12月 |
象の消滅 短篇選集 1980-1991 | THE ELEPHANT VANISHES | 2005年3月30日 |
めくらやなぎと眠る女 | BLIND WILLOW, SLEEPING WOMAN | 2009年11月27日 |
女のいない男たち | MEN WITHOUT WOMEN | 2014年4月18日 |
図書館奇譚 | THE STRANGE LIBRARY | 2014年12月2日 |
エッセイ・ノンフィクション・その他
アンダーグラウンド | UNDERGROUND | 1997年3月20日 |
走ることについて語るときに僕の語ること | WHAT I TALK ABOUT WHEN I TALK ABOUT RUNNING | 2007年10月15日 |
小澤征爾さんと、音楽について話をする | ABSOLUTELY ON MUSIC Conversation with SEIJI OZAWA | 2011年11月30日 |
走ることについて語るときに僕の語ること 【2007年10月15日】
小澤征爾さんと、音楽について話をする 【2011年11月30日】
英語学習として読む村上春樹
NHK出版から出ている以下の2冊は、英語学習に最適です!
なんと短編が丸々ひとつ、英語・日本語の対訳になっていて、さらには訳し方のポイントまで詳細に解説されているという親切な本です。
同じことを言っていても微妙に違う英語と日本語の言い回しの差、文化的背景の違い、英語にはない敬語など、かなり丁寧な解説です。
ざっと読むだけでも、すごく英語の勉強になった気がします。
というか、この2冊をしっかり読み込んだら、本当に英語の実力アップには役立つと思います。
長編にいきなりチャレンジするのが躊躇われる方は、この2冊から始めてみるのも良い方法だと思います。
まとめ
村上春樹は翻訳も多くやっていますし、ご自身も英語が堪能なようで、英語とは親和性の高い作家です。
日本の作家としては、英訳された作品が多く充実していますし、英語での読書の入口としても最適だと思います。
英語でも読みやすいです。
短編は初心者でも十分行けると思いますし、長編でも中級レベルで全然問題ないです。
村上春樹のファンの方はもちろんですが、今まで敬遠していた方がいたら、ぜひ英語で読んでみてください。
もしかしたら、村上春樹の印象が変わるなんてことも、あるかもしれません。